From Peasantry To Palm Beach: The Story Of The Bass Weejun | Ivy Style
・・・19世紀、英国のスポーツマン(遊漁者)がサーモンを釣りにノルウェーに押し寄せ始めた。ノルウェーのビスポークシューメイカー J.P. Myhre によると(*1)、特に人気の行き先はソグネ・フィヨルドの支流のアウルラン・フィヨルドで、20世紀になるまでには、英国から来た「サーモン卿」たちは、Teserという名の現地で作られたスリッポンを履き始めた。
Aurlandssko(slip-on shoeのノルウェー語), 1945~1960年頃 | National Library of Norway
Esquireの関係者らは、このノルウェーの農民の靴をヨーロッパのリゾート地で初めて見て、続いて1935年末から1936年始にかけての避寒シーズンのパームビーチで見た。パームビーチで見た靴は、ロンドンの店で買われた本物のノルウェーの靴だった(*2)。当時、この靴(のコピー)を作る会社はアメリカにはなかった。
Weejunsの由来の正確な話は今も少々曖昧だが、Esquireが1935年にこの靴を見たことははっきりしている。Esquireは恐らくこの靴のポテンシャルを直感し、紳士服店Rogers PeetはEsquire とコラボして、まだ製造されてもいない靴を販売することに同意した。EsquireとRogers PeetはBassに製造を依頼した。
Bass社創業75周年にあたる1951年に、The Lewiston Daily Sun誌がJohn R. Bass氏をインタビューした記事(*3)が無ければ、EsquireとRogers Peetの関係は完全に忘れ去られたであろう(*4)。その記事の「EsquireとRogers PeetがBassに話を持ちかけ、Weejunsを作れるかどうか尋ねた」というリード文に対し、John Bass氏は「ポートランドでEsquireの関係者と会い、そのプロジェクトを話し合った」と述べている。
今にして思えば、Bassはモカシンタイプの靴のパイオニアだったのだから、Weejun製造に最適だったのだろうが、John Bass氏はWeejunの展望に楽観していなく、「私が懐疑的だったことは認めます」と詳しく語った。彼は何を問題にしていたのだろうか? 「この種の靴は売れないと思った。というのも、ハウススリッパを外履きにするように見えたからだが、製造には同意した」と。
Bassは2つの問題に直面した。1つめはモノで、「ソールとアッパーに適した革の入手が難しかった」のだが、程なくして見つかった。2つめはカネで、プライスポイントに合わせることができなかった。「この靴を作るのにかかるであろう価格が決まっていたが、その価格で作ることができなかった。Esquireにこの事を伝えたところ、Esquireの社長ができるだけ最善の価格で何とか作ってくれと言った」とJohn Bass氏はThe Lewiston Daily Sun誌に語った。Esquireが「Weejun」と造語したのだが、権利はBassに譲られた。
次の段階はRogers Peetとのプロモーションだった。Esquireは「新しいスタイルの予告:ノルウェーのモカシン」と打ち出し、1936年の新商品を読者に約束した。アメリカでの目撃はパームビーチで、Esquireは「この靴の重大さは、社交界の人、裕福な人、スポーツマンといった洒落者の足元を飾ることで証明される」と書き、さらに「流行に敏感なアメリカのメーカーはこの靴のコピーにすぐ取り掛かる」とも書いている。
全くの誇大広告だった。John Bass氏が、当社はWeejunプロジェクト遂行に特別やる気があったわけではない、と示唆したからだ。次に、Esquireは「流行の最先端にいたい人」のためにアメリカ製のコピーを入手できると読者に知らせた。
Weejunのメリットは何か? Esquireによると、「革は丈夫だか柔らかく履き心地が良い。甲周りにストラップが縫い付けらており、一日中スリッパのように快適だが、スリッパではないので、来客が眉をひそめる心配をすることなく、家の周りで履いてもいい。歩行時はアキレス腱周りをしっかりホールドする巧みな構造のおかげで踵は抜けないが、非歩行時はリラックスできる」と。
Esquireの役目が終わり、次はRogers PeetがWeejunを売る番だった。Weejunの最初の広告は1936年5月27日のThe New York Herald Tribune誌だった。Weejunのイラストとフロリダで目撃された3人の足元の写真を載せた。広告のコピーは「初めて見たのはパームビーチ!初めて売るのはRogers Peet!初出荷分は完売!」だった。Weejunは「元々はノルウェーの農民が作って履いた靴だが、今は、アメリカの洒落者がスポーツシューズとして履いている」とコピーに続けて説明している。・・・
(*1) AURLANDSKOEN AND THE TERM "NORWEGIAN" | Ask Andy FORUMS
By the mid-thirties, Norwegian-model shoes had been adopted by well-dressed Americans. Variations of the shoes made by hand by Norwegian fishermen during their off-season, they first became popular in London, where American tourists discovered them. Soon two variations were being seen at fashionable American winter resort: a slip-on style with a moccasin front that was called “Weejuns” and a laced style with a moccasin front that was known as the Norwegian-front shoe. The July, 1936, issue of Esquire showed Weejuns of brown polished calf and a pair of brown-and-white Norwegian shoes.(下線部のイラストを公開されている:ローファー その1 | You ain't heard nothin' yet!)
(*3) Lewiston Daily Sun誌は、Google News Archiveに網羅的にアーカイブされているが、創業75周年のインタビュー記事はアーカイブから漏れているようだ。最後の段落以外の鉤括弧は全て、その記事からの引用と思われる。
<追記> 創業75周年記事を発掘されたブログが非公開モードから復活してた。(The REAL Definitive History of Bass Weejuns! - The Weejun)
(*4) Lakeland Ledger - Sep 8, 1986 | Google News ArchiveのWeejun50周年記事では、「Bassがノルウェー旅行中にWeejunの原型を発見した。Weejunという名は、Bassがモデルとして使ったノルウェーのモカシンを引き合いにした、“Norwegian Injun”を短くしたものである」と書かれており、EsquireとRogers Peetの関係は全く触れられていない。
ロンドン旅行中にノルウェーの農民の靴を見つけたアメリカ人が、フロリダでその靴を履き、それを見たEsquireがBassに製造依頼して大ヒットした、という流れだが、ノーサンプトン博物館の元学芸員のJune Swannが、1936年の新作の靴を米国経由と紹介しているものだから、話がややこしくなる。
・・・60 Men's shoes, (a) One of a pair of tan leather slip-on casual shoes (the contemporary term was 'slipper') by Lotus Ltd, Northampton. Round toe, 3/4-inch stacked heel. Instep strap stitched over apron front. The 'Norwegian moccasin' (apron front) was new in 1936.・・・
・・・There were also casual slip-on shoes, frequently with apron front, derived from the 30s 'slipper' (fig. 60a), via the United States. Raymond Chandler's Playback, 1958, described one of the characters: 'He was California from the tips of his port-wine loafers to the buttoned and tieless brown and yellow check shirt' - though the name 'loafers' was unfamiliar in Britain as yet.・・・
Shoes-The Costume Accessories Series (1982): June Swann | Huuto.net
Man's tan leather apron front shoe. 1936. Made by Lotus.
Mecca & The Sole Brother (Part II): A Trip to Northampton (The Shoe Museum) | An Uptown Dandy
ちなみに、当時の英国での用語は'slipper'だった、と書いている。ロブは今でも'slipper'と呼んでいる模様。また、apronではなくてlake。
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