2015/09/25

皮革の耐屈曲性と経年劣化

9/25/2015

実験概要

  • 経年劣化を測定
    • (1) 北米産塩蔵小牛皮より製造された純クロム革(再鞣処理なし)を、製造後1週間、1年間、2年間、4年間保存したときの経年劣化を測定
    • (2) 中小牛皮、成牛皮より製造されたクロム甲革(再鞣処理あり)を、製造後5年間、8年間、13年間保存したときの経年劣化を測定
  • 耐屈曲性等を測定
    • (3) 1977年9月より1978年3月にヨーロッパ諸国および国内で入手した中小牛皮より製造されたクロム甲革(再鞣処理あり)の耐屈曲性等を測定(1980年発表)
    • (4) 1986年にヨーロッパ諸国で入手した中小牛皮、成牛皮より製造されたクロム甲革(再鞣処理あり)の耐屈曲性等を測定(1988年発表)
    • (5) 1997年にヨーロッパ諸国で入手した中小牛皮、成牛皮より製造されたクロム甲革(再鞣処理あり)の耐屈曲性等を測定(2002年発表)
    • (3)(4)(5)は、いつ製造された革を、いつ実験したかは不明


まとめ

  • (1)(2)より、デッドストックは縮むことでほんの少し厚みが増し、伸縮性が無くなり、銀面が硬くなり、割れやすくなる。
  • (2)より、銀付成牛革、銀付中小牛革、ガラス張り革(樹脂仕上げ)、シュリンク革の順に割れやすくなる傾向にある。
    • (3)(4)でも、シュリンク革が一番割れやすい。シュリンク用合成鞣剤は銀面を収縮し劣化させるため。
    • (4)(5)では、銀付成牛革と銀付中小牛革の耐屈曲性(寿命)の優劣は見出だしにくい。
      • 特に銀付中小牛革に関して。各国の革がそれぞれ、同じ時期に同じタンナーで鞣された革であるのならば、原皮のアタリハズレによって同じタンナー内でも耐屈曲性に大きな差が出る、と言えるのかもしれない。
    • (4)(5)より、樹脂仕上げには割れやすい(3万回で著しく割れた)ものから、割れにくい(5万回でも割れなかった)ものまで様々あることがわかる。
  • 単にクロム革と呼ばれているものでもクロム単独鞣しである場合は少なく、植物タンニンあるいは合成鞣剤などを使用する再鞣方法が採用されていることが多い。再鞣処理が十分なほど鞣し度が大きくなり、銀面および革の感触が柔軟にまた豊満になる。
    • (2)(3)(4)(5)より、西ドイツは再鞣処理程度が少なく、イタリアおよびフランスは再鞣処理が十分に行われている。イギリスとオランダはその間といったところ。耐屈曲性(寿命)を上げる再鞣剤はなさそうだが、下げる再鞣剤はあると言えそう。
    • 保存性の面より、さらに再鞣について検討する必要がある、と(2)で結論付けされているが、この研究を引き継いだ人がいないようで残念。
  • (3)の日本製カーフは海外製カーフより割れやすい。原皮の問題なのか(主に北米産の中小牛皮を使用)、製革技術の問題なのか(銀面が硬い)、それ以外なのかは、(3)では言及なし。
  • 耐屈曲性的には、(子)山羊革と(子)緬羊革が出色。シボ革を買うなら、シュリンク革より山羊革を買ったほうが良さげ。


気になったこと

  • 製造後より定期的に保革して保存した場合の、5年後、8年後、13年後の耐屈曲性試験結果。経年劣化は抑えられるのかどうか。
  • 現在のシュリンク革も割れやすいのかどうか。シュリンク用合成鞣剤は改善したのかどうか。


Begin 2015年11月号調べ 1デシあたりの価格(円)

輸入高値 国産下値
コードバン 1400 440
オーストリッチ 500 なし
カーフ 280 100
キップ 280 70
カウ 190 60
ステア 190 60
ブル 190 60
シープ 170 60
ホースハイド 160 40
ディア 150 70
ゴート 130 50
ピッグ なし 80~25





(1) 岡村浩、皮革の保存による性状の変化 (その1) | 家政学雑誌 Vol. 28 (1977)

1. 緒言
・・・クロム甲革を仕上げたのち保存することにより、その性状が変化することは経験的にすでに知られている。たとえば仕上げ当初、感触および銀しぼに難点のあった甲革が保存により品質が向上し、またシュリンク革が保存とともに裂けやすくなる現象が見られる。保存による性状の変化に関する研究は案外少なく、著者の4年間保存におけるクロム革の機械的性質の変化を検討した報告1)以外はあまり見られない。しかし、皮革および皮革製品の流通機構の関係より、革として長いものでは2~3年間程度倉庫に保管され、また皮革製品となり消費者の手に渡ってからも比較的長期間保存されるようである。したがって、皮革および皮革製品の保存性を検討しておく必要がある。
 本報告では、各種皮革の保存時の変化を検討する基礎として加脂のみを行った純クロム革を試料として、室内保存・・・における性状の変化を検討した結果をとりまとめた。

2. 実験
 原料皮は北米産塩蔵小牛皮12~17lbs.を使用した。クロム鞣製および加脂処理の条件は下記のごとくである。・・・
・・・保存期間を張革終了後、a:1週間、b:1年間、c:2年間、および、d:4年間とし・・・た。なお、保存場所は直射日光の当らない比較的乾燥した室を選んだ。・・・

4. 考察
 室内保存・・・によるクロム革の機械的性質・・・の変化を明らかにするため、・・・1週間保存の測定値を100とし、各保存処理および期間による変化率を算出し・・・た。・・・結果によれば、

  • 厚み、7mm高時の荷重、銀面割れ時の荷重は増加し、
  • 引張強さ、切断時の伸び、1kg/mm2荷重時の伸び、引裂強さ、銀面割れ時の高さは減少
  • の傾向を示した。・・・

保存期間
1週間 1年 2年 4年
厚さ 100 102.0 102.4 102.8
引張強さ 100 100.6 92.0 91.2
切断時の伸び 100 98.8 95.8 94.0
1kg/mm2荷重時の伸び 100 97.4 87.8 80.0
引裂強さ 100 102.9 95.2 93.0
7mm高時の荷重 100 95.2 107.2 110.1
銀面割れ時の荷重 100 98.0 108.4 113.7
銀面割れ時の高さ 100 99.5 94.6 92.9

靴用甲革及びその他の薄物革の銀面の強さを測定する試験。製甲の釣り込み作業で銀面に割れ、又は、き裂を生ずる傾向を評価するために行う。・・・円形に裁断した革試験片の周辺を固定し、中央を鋼球により押し上げ、銀面に割れを生じた時の荷重(銀面割れ荷重)と高さ(銀面割れ高さ)を測定する。・・・

銀面割れ試験 | 皮革用語辞典



(2) 岡村浩ら、皮革の長期間保存中における性状の変化 | 日本家政学会誌 Vol. 40 (1989)

1. はじめに
 皮革は仕上げ直後のものより2~3ヵ月保存すると感触が変化し、皮革らしさが向上すると経験上いわれている。また、皮革は皮革販売業者や製靴業者で保存される期間が比較的長い。この場合、保存には十分配慮され変色や変性が起こらないようにされているが、実際に長期間保存(5年以上)により性状がどの程度変化するかを示すデータは諸外国においても見あたらない。・・・
 本報告では、靴用甲革を5年間、8年間および13年間と長期の保存が皮革の性状におよぼす影響を検討した結果をとりまとめる。

2. 実験方法

  • 紳士靴用に成牛皮より製造された
    • 一般甲革(カゼイン、アニリン仕上げ、濃茶色)
    • ソフト調革(防水加工、ワイン色)
    • ナッパ調革(セミアニリン樹脂仕上げ、濃紺)
    • ガラス張り革(樹脂仕上げ、白色)
  • 婦人靴用に中小牛皮より製造された
    • 型押し革(カゼイン仕上げ、薄茶色)
    • ボックス革(カゼイン・ボックス仕上げ、黒色)
    • シュリンク革(カゼイン仕上げ、濃紺色)
の合計7種類のクロム鞣しを主体としたものを試料革とした。これらの試料革は、いずれも昭和50年5~6月に製造されたものである。
・・・東京都にあるコンクリート3階建て、2階の乾燥している革保管室(直射日光の当たらない北向き)に薄茶色包装紙に試料革を1枚ずつていねいに巻き、ダンボールケースに納め保存した。なお、革保管室の温度は12~22℃であり、保存中にかび等の発生は認められなかった。

3. 結果および考察
1) 保存による化学分析値の変化
・・・遊離脂肪分は、いずれの試料革とも保存により減少し、遊離脂肪比は保存により-6.0%~-25.6%の範囲で平均 -16.7%と減少する。これは遊離脂肪分が保存中にコラーゲン繊維に固着するか、油自体が酸化重合され石油エーテルで抽出されない状態になるものと考えられる。保存期間による遊離脂肪比の変化率の平均を求めると、5年間保存-15.9%、8年間保存-16.8%および13年間保存-17.4%と保存により減少するものの、製造時より5年間までの変化に比較すると非常に小さいものであった。特にスエード革では-6.0%~-7.5%と小さく、酸化されにくい特殊な加脂剤の使用が推察された。
 鞣し度は可溶性成分、固着成分の影響を受けるが、ソフト調革、ナッパ調革およびガラス張り革の13年間保存した場合の変化率は、それぞれ25.0%、16.3%および27.1%であり、他の試料革と比べ著しく大きい値を示した。製造時の試料革の鞣し度は、・・・12.8~35.9の範囲で平均20.0であり、クロム鞣し後に再鞣剤で処理されていることを示している。しかし、これらの試料革の鞣し度とその保存による変化率との間には明確な関連性が認められず、試料革個々でその変化率が異なることから、再鞣剤の種類が保存による鞣し度の変化に影響するものと推察された。
 試料革のpHについては、・・・保存により平均0.23低下する。・・・コラーゲンに吸着しているクロム錯塩中の硫酸根が錯塩外に遊離する結果としてpHが低下するものと考えられる。このpH低下を保存期間による平均値で求めると、5年間保存0.29、8年間保存0.19、13年間保存0.22の低下となり、遊離脂肪比と同様5年以降の変化は非常に小さいものであった。
 以上の結果より、試料革の化学分析値は、保存の比較的初期の5年間に大きく変化するが、その後の保存期間の延長による変化の進行は大きなものではなかった。

2) 保存による機械的性質の変化
・・・保存による機械的性質の変化は・・・中小牛皮で製造されたシュリンク革の変化が著しく大きく、ボックス革が最も小さかった。シュリンク革は製造工程で革の銀面を収縮させるために多量の合成鞣剤を使用するのに対し、ボックス革は合成鞣剤の使用量が比較的少ないのが一般的である。このような製造条件の違いが、保存による機械的性質の変化に大きく影響をおよぼすものと考えられた。引張強さ、伸び、引裂強さ、破裂強度は保存により低下する。また、7mm高時の荷重、銀面割れ荷重は保存により増加し、銀面割れ高さは減少する。すなわち、試料革を保存することにより機械的性質は劣化するが、化学分析値の変化の項で記載したように遊離脂肪比の減少、pHの低下が原因と考えられる。シュリンク革の場合、銀面割れ荷重および高さとも、他の試料革に比較して変化率が大きく、保存により銀面層の劣化が顕著であった。・・・

3) 保存による物理的性質の変化
・・・耐屈曲性においても保存による劣化が認められ、とくにシュリンク革およびガラス張り革の劣化が著しかった。
 剛軟度についてみると、いずれの革も保存の影響を受け、剛軟度の変化率が増加し、柔軟性が低下する。とくに再鞣剤の使用量が多いと考えられるガラス張り革、シュリンク革、ナッパ調革およびソフト調革の剛軟度は保存により大きく増加し、柔軟性が明らかに低下していることが認められた。
 現在、皮革製品の多様化と公害問題の対策のため、省クロム鞣しによるウェットブルーを素材とし多種類の再鞣剤を組み合わせる製革方法が主流となりつつある。したがって、保存性の面より、さらに再鞣について検討する必要があるものと考えられた。

4. まとめ
 靴用甲革として成牛皮より製造された一般甲革、ソフト調革、ナッパ調革、ガラス張り革・・・および中小牛皮より製造された婦人靴用の型押し革、ボックス革、シュリンク革・・・を5年間、8年間および13年間室内に保存し・・・次のような結果を得た。

  1. 保存により化学分析値では、遊離脂肪比の減少、pHの低下、機械的性質では引張強さ、伸び、引裂強さの減少、さらに物理的性質では耐水度、剛軟度の増加と耐屈曲性の低下が認められた。
  2. 革の保存による性状の変化は、革の製造過程、とくに再鞣や加脂条件の影響を受け、再鞣剤が多いと強度の劣化がみられ、加脂の効果は耐水性の向上がみられた。
  3. 保存による変化は、保存の初期の5年間に比較的大きく変化するが、その後の保存期間の廷長による変化の進行は大きなものではなかった。

厚さ (mm) 鞣し度 保存期間と耐屈曲性
0年 5年 8年 13年
成牛革 一般甲革 1.71 23.7 5万○ 4万△ 4万× 4万×
ソフト調革 1.93 35.9 5万○ 3.5万△ 4万× 3.5万×
ナッパ調革 1.22 12.8 5万○ 5万△ 5万△ 4.5万△
ガラス張り革 1.67 14.1 4.2万△ 3万× 3.5万× 3.5万×
中小牛革 型押し革 0.79 22.2 4.7万△ 4万× 4万△ 4万△
ボックス革 0.80 14.6 4.3万△ 4万× 4万× 4万×
シュリンク革 0.77 21.4 3.7万△ 3万× 2.5万× 2万×

○:銀面に割れ無し、△:銀面に軽度の割れ、×:銀面に著しい割れ

 クロム鞣剤が主流であるが、革に色々な風合いを付加させるためクロム鞣剤のみで鞣しを完成することは非常に少ない。クロム鞣しを行ったのち様々な再鞣剤で再鞣しを行う。 再鞣の目的と効果は以下のとおりである。

  1. バッフィングと型押しの改善:クロム革の比較的表層の繊維束の分離を促進して繊維の弾性を減少させる。型押仕上げには繊維の可塑性を強める植物タンニンなどによる再鞣が適している。
  2. ふくらみなどの触感(風合い)を改善:繊維束の分離が進むと微細な繊維空間が増加するので、革のふくらみ感が増し暖かい接触感を付加する。
  3. 自然な銀面模様:革が乾燥すると繊維同志が膠着して組織が収縮する傾向があり、銀面層に特有な凹凸模様や毛穴の開口状態などによる模様が自然に形成される。これらの模様は「しぼ」「きめ」「しわ」などとして製品革の品質に大きく影響する。一般的に無機系鞣剤での再鞣は繊細な模様を、植物タンニン剤は粗大な模様を形成する。
  4. 銀面のしまり:銀面層と網様層の接合部は繊維の交絡がゆるい。ひどい時は「銀浮き」という欠陥となる。繊維束の分離を促進する鞣剤は銀面をルーズにし、無機系鞣剤、特にアルミニウムやジルコニウム鞣剤は銀面を引き締める効果が大きい。
  5. 充填効果:革の腹部など繊維の交絡がゆるく繊維密度の少ない部分は充実感が乏しい。再鞣剤を繊維間に沈着させて充実効果を上げる。植物タンニン剤、ホルムアルデヒド樹脂鞣剤、アクリルポリマー鞣剤などが充実効果を高める。
  6. 染色性の改善:この目的には二つある。一つはパステル調の淡染色を施す目的(アニオン染料の染着性の抑制)と濃色化のためにアニオン染料の親和性を増加させる作用を付加する。
  7. 耐汗・耐洗濯性の改善:クロム鞣し革は汗や洗濯性に比較的弱い。特にグルタアルデヒド鞣剤は効果的である。

再鞣の目的 | 日本皮革技術協会



(3) 岡村浩ら、中小牛皮より製造されたクロム甲革の性状 | 家政学雑誌 Vol. 31 (1980)

1. 緒言
・・・最近、靴や皮革製品が多様化されるにしたがって、甲革の製造方法も、この数年著しく複雑となり、単にクロム革と呼ばれているものでもクロム単独鞣しである場合は少なく、植物タンニンあるいは合成鞣剤などを使用する再鞣方法が採用されていることが多い。したがって、被服材料として皮革を使用する場合、最近製造販売されている革の性質を検討しておく必要がある。
 本報では、国際会議などに出席した機会にヨーロッパ諸国で入手した中小牛皮より製造されたクロム甲革および同時期に国内で入手したクロム甲革の一般的な性質を測定したので、その結果をとりまとめた。

2. 実験方法
 1977年9月より1978年3月の期間にヨーロッパ諸国(西ドイツ、イタリア、フランス、イギリス、オランダ)および国内で入手した中小牛皮より製造されたクロム甲革・・・を試料革とした。・・・

3. 結果および考察
・・・銀面の平滑な革と合成鞣剤を使用し銀面を収縮させたシュリンク革(イタリア製のみ)・・・の・・・仕上げの特徴・・・

  • ボックス仕上げは、顔料および染料を混合したカゼイン系の塗料を塗布後、グレージング処理(硝子の玉で摩擦することにより艶を出す)を施したもので比較的塗装膜が厚いものを示す。
  • アニリン仕上げとは、顔料を使用せず染料を主体として着色した仕上げ塗装剤を塗布(あるいはスプレー)し、塗装膜は薄く透明感を強調したもので、カゼイン系および合成樹脂系の仕上げ剤のいずれかが使用されている。この場合、カゼイン系仕上げ剤を塗装すると一般にグレージング処理を施すので、グレージング仕上げと簡単に呼ばれている。
・・・西ドイツのクロム甲革(主としてボックス仕上げ)は植物タンニンあるいは合成鞣剤による再鞣処理程度が少なく、イタリアおよびフランスのクロム甲革(アニリン仕上げ)は植物タンニンあるいは合成鞣剤による再鞣処理が十分に行われていることが認められた。・・・
※ 植物タンニンおよび合成タンニンによる再鞣処理が十分なほど鞣し度が大きくなり、銀面および革の感触が柔軟にまた豊満になる。

・・・とくにイタリア、フランス製のクロム甲革は、1kg/mm2荷重時の伸びが大きく、7mm高および銀面割れ時の荷重が小さい柔軟な革であることを示している。これと逆に日本製クロム甲革は、引裂強さ、7mm高および銀面割れ時の荷重が最高値を示し、銀面が硬い柔軟性に乏しい傾向にあると考えられた。
 シュリンク革は、同じイタリア製の一般クロム甲革に比較すると銀面割れ時の高さが8.8mmと低く、銀面のシュリンク処理による劣化が示されている。・・・

・・・シュリンク革は、一般クロム甲革に比較して、・・・耐屈曲性に劣るが、銀面の収縮処理の影響と考えられる。・・・

  • 中小牛革
  • 中小牛皮より製造されたクロム甲革の性状 (1980)


(4) 岡村浩ら、ヨーロッパで製造された靴用甲革の性状 | 日本家政学会誌 Vol. 39 (1988)

1. はじめに
 現在、多様化された皮革製品の素材としての皮は、クロムなめし単独のものでは消費者の要求を満足させることができず、靴用甲革もクロム鞣製を主体とし、植物タンニン、合成鞣剤等による再鞣処理を施した革を使用することが多い。
 靴用甲革に関する性状については、岡村ら1)2)が1977年に日本およびヨーロッパ諸国で製造された甲革を収集し、その性状を報告した。その後、約10年を経過し製革技術も当然変化しているものと考えられる。
 本報では、1986年にヨーロッパ諸国で入手した靴用甲革の一般的な性質および特性につき検討した結果をとりまとめた。

2. 実験
 試料甲革は、1986年に西ドイツ、イタリア、フランス、イギリス、オランダおよびスペインのヨーロッパ諸国の鞣製工場、製靴工場より収集した一般的な靴用甲革である。すなわち、中小牛皮より製造された靴用甲革:20点、成牛皮より製造された靴用甲革:17点、山羊および緬羊皮より製造された靴用甲革:11点・・・である。・・・

3. 結果および考察
1) 中小牛皮より製造された靴用甲革
 ・・・西ドイツ、イギリスおよびオランダは、クロム含有量が多く、なめし度が平均10.5と低く、再鞣処理の程度が少ないものと考えられる。逆にイタリア、フランスでは、クロム含有量が少なく、なめし度が平均17.5となり再鞣処理が十分施されている。
 参考データと比較すれば、イギリス、オランダではなめし度が低下し、全体として中小牛皮より製造された靴用甲革では、再なめしの程度を低くし、硬めの感触をもたせ、艶の優れた革を求める傾向があるものと考えられる。
 シュリンク革は、前なめしで合成鞣剤により銀面層を収縮させるためなめし度は高く、クロム含有量は少ない。・・・
 ・・・再鞣処理が十分施されたと考えられるイタリアおよびフランスは、切断時の伸びが大きく、銀面の強さ(7mm高時および銀面割れ時の荷重)が小さく柔軟な革であった。
 シュリンク革は、銀面使用の靴用甲革に比較して、引張強さ、切断時の伸び、引裂強さが小さく、7mm高時の荷重および銀面割れ時の荷重が大きく、シュリンク処理による銀面固定の影響が大きかった。・・・

ヨーロッパで製造された靴用甲革の性状 (1988) 1

2) 成牛皮より製造された靴用甲革
 ・・・成牛皮より製造された靴用甲革は仕上げ方法により、一般靴用甲革、靴用ソフト革、靴用ナッパ革および銀磨り靴用甲革に分けられる。
 なめし度は、銀磨り靴用甲革<一般靴用甲革<靴用ナッパ革<靴用ソフト革となり、再鞣処理の程度が明らかになめし度として現れている。靴用ナッパ革は参考データと比較して約2倍となり、再鞣処理が進みソフト化の要求に適合するように配慮しているものと推察される。・・・
 ・・・靴用ナッパ革は、厚さを薄く調整するためか、引張強さ、引裂強さが銀面使用革では小さく、伸びは最大値を示していた。また、7mm高時および銀面割れ時の荷重は小さかった。・・・

ヨーロッパで製造された靴用甲革の性状 (1988) 2

3)山羊および緬羊皮より製造された靴用甲革
 ・・・7mm高時および銀面割れ時の荷重が・・・中小牛皮より製造された靴用甲革よりも測定値が低く、伸び率(1kgf/mm2荷重時と切断時の伸びの比)とを考え合わせると、柔軟な靴用甲革であることがわかった、緬羊革の大判の場合には、加脂剤の効果が伸びに現れ、小判より伸びやすい革であった。
 ・・・耐屈曲性は、中小牛皮および成牛皮より製造された靴用甲革より優れ、これには厚さの影響も考えられるが、原料皮としての組織構造によると推察される。しかし・・・耐水度は、同じグレージング仕上げおよびアニリン仕上げを行った中小牛皮より製造された靴用甲革に比較して劣っていた。

ヨーロッパで製造された靴用甲革の性状 (1988) 3


(5) 角田由美子、ヨーロッパで製造された靴用甲革の性状 | かわとはきもの No.121, 122 (2002)

  • 中小牛革

    ・・・イギリスとオランダは、クロム含有量がそれぞれ平均4.06%、4.52%と高く、鞣し度が14.6、14.0と低い。すなわち、再鞣処理の程度が少ない傾向が見られ、この傾向は、1977年、1986年と同様であった。
     一方、イタリア、フランスのクロム含有量は、それぞれ平均3.38%、3.65%と低く、鞣し度が18.9、18.2と多少増大している。
     ドイツのクロム含有量の平均は3.59%であり、全試料の平均値とほぼ同程度であるが、年次平均値は、1977年:4.19%、1986年:4.07%、1996年:3.59%となり、減少の傾向が見られる。また鞣し度は、1977年:8.3、1986年:9.8、1997年:11.4と増加し、省クロム化の傾向が見られるものの顕著なものではなかった。・・・
    ・・・再鞣処理が施されたと考えられるイタリアおよびフランスは、1kgf/mm2(9.8Mpa)荷重時の伸びがやや大きく、銀面の強さ(7mm高時の荷重)が低かった。また、引張強さ、引裂強さもやや低い傾向を示した。
     オランダは、引張強さ、引裂強さが強く、1kgf/mm2(9.8Mpa)荷重時の伸びが小さく、比較的硬い革であった。・・・

  • ヨーロッパで製造された靴用甲革の性状 (2002) 1

  • 成牛革

    ・・・靴用ソフト革、靴用ナッパ革のクロム含有量は低く、鞣し度が高かった。ナッパ革の鞣し度の年次平均値は、1977年:12.9、1986年:26.9、1997年:29.0と増加しており、再鞣処理が十分に施されていることを示している。遊離脂肪分の全脂肪分に対する比は、靴用ナッパ革および靴用ソフト革において高いことから、ソフトさを得るために特別な加脂剤が用いられていることを示している。・・・
    ・・・靴用ナッパ革は、厚さを薄く調整するため、引張強さ、引裂強さ(1997年の平均値)は、一般靴用甲革の96.6%、81.8%と低いが、1kgf/mm2(9.8Mpa)荷重時の伸び、切断時の伸びは176%、129%と高くなっていた。また、7mm高時の荷重、銀面割れ時の荷重は64.0%、79.9%と低かった。・・・

  • ヨーロッパで製造された靴用甲革の性状 (2002) 2

  • 山羊革、緬羊革

    ・・・7mm高時および銀面割れ時の荷重が・・・中小牛皮より製造された甲革よりも低く、伸び率(1kgf/mm2荷重時と切断時の伸びの比)とを考え合わせると、柔軟な靴用甲革であると考えられる。緬羊革の大判の場合には、加脂剤の効果が伸びに現れ、小判よりも伸びやすい革であった。・・・
    ・・・耐屈曲性は、中小牛皮および成牛皮より製造された甲革よりも優れていた。これは、厚さの影響もあると考えられるが、原料皮としての組織構造によるものと推察される。しかし、耐水度は、同じグレージング仕上げおよびアニリン仕上げを行った中小牛皮から製造された甲革に比較して劣っていた。・・・

  • ヨーロッパで製造された靴用甲革の性状 (2002) 3

0 Comments: