2015/12/20

ヌメ革の日焼け~ヨウ素価と酸化速度

12/20/2015
について質問を頂いたので、まとめました。

 油脂とはグリセリン1分子に脂肪酸3分子が結合したもの。

すぐにわかるトランス脂肪酸 | 農林水産省


 脂肪酸には、炭素の二重結合がない飽和脂肪酸と、炭素の二重結合がn個あるn価不飽和脂肪酸がある。

Fatty acid | Wikipedia


 左はステアリン酸3つ、右はリノール酸3つが結合した油脂のモデル。

脂質(分子模型) | 日々の戯れ


 不飽和度の高い脂肪酸ほど酸化が速い。
飽和脂肪酸
  ↓ 100倍酸化しやすい
一価不飽和脂肪酸 (オレイン酸)
  ↓ 20~40倍酸化しやすい
二価不飽和脂肪酸 (リノール酸)
  ↓ 2倍酸化しやすい
三価不飽和脂肪酸 (リノレン酸)
 油脂を空気、熱、光などにさらして貯蔵しているうちに変質がおこり、いやなにおい、味を生ずるに至る。この現象を酸敗という。変敗とも称する。これは主として油脂の自動酸化(大気中の酸素分子による緩慢な酸化)による。微生物の作用によることもある。自動酸化に対し、飽和脂肪酸はオレイン酸に比べ非常に安定(100倍程度)であり、オレイン酸はリノール酸よりも著しく安定(20~40倍)である。リノール酸はリノレン酸よりも安定(2倍程度)である。リノレン酸は、魚油に含まれる高度不飽和脂肪酸よりも安定といえる。結局、リノール酸以上の不飽和度の高い脂肪酸の含有量が、油脂の酸敗の度合いを実質的に左右する。・・・

酸敗 | コトバンク


 一般の油脂は混合物なので化学式がなく、実験によってヨウ素価は求められるが、化学式が分かっている油脂のヨウ素価は、「油脂1分子中の二重結合数×254×100/油脂の分子量」から求められる。
  <参考> ヨウ素価 | 天の森ヨウ素価 | 農林水産省

 ヨウ素価の理論値の例。
  1. 1分子中の炭素の二重結合数が3個の例
    1. 3つのオレイン酸(1価不飽和)からなる油脂。分子量は884なので、ヨウ素価は86。
    2. ステアリン酸(飽和)、パルミチン酸(飽和)、α-リノレン酸(3価不飽和)からなる油脂。分子量は856なので、ヨウ素価は89。
  2. 1分子中の炭素の二重結合数が6個の例
    1. 3つのリノール酸(2価不飽和)からなる油脂。分子量は878なので、ヨウ素価は174。
    2. パルミチン酸(飽和)、2つのα-リノレン酸(3価不飽和)からなる油脂。分子量は850なので、ヨウ素価は179。

 私の理解によるまとめ。
  • ヨウ素価が高いほど酸化しやすい。例えば、オイルがけなしのヌメ革、ヨウ素価80のオイルを塗ったヌメ革、ヨウ素価180のオイルを塗ったヌメ革の順に濃く日焼けする。
  • 同じヨウ素価のオイルを塗った場合、十分日焼けした色合いは同じになるが、不飽和の高い脂肪酸が含まれるほど速く日焼けする。
  • 上の理論値の例で言えば、(A-i)と(A-ii)は十分日焼けすれば同じ色合いになるが、(A-ii)の方が速く日焼けする。

 Giles氏の実験を振り返ってみると、マスタングペーストによって十分日焼けした色はオリーブ油のそれよりもやや薄く、オリーブ油より不飽和度が高そうに思えるマスタングペーストの日焼けが遅いのは何故なのか、記事公開当時は不思議に思ったのですが、マスタングペーストは精製の段階で不飽和の高い脂肪酸の酸化が始まっており、その結果、マスタングペーストのヨウ素価がオリーブ油のそれよりも低くなっている、と考えれば理屈はあうなと思いますがどうでしょうね。
The Fats and Oils 我が国の油脂事情
馬油 ヨウ素価 71~86 飽和脂肪酸 37%
一価不飽和脂肪酸 42%
二価不飽和脂肪酸 5%
三価不飽和脂肪酸 16%
オリーブ油 ヨウ素価 79~88 飽和脂肪酸 19%
一価不飽和脂肪酸 73%
二価不飽和脂肪酸 7.3%
三価不飽和脂肪酸 0.7%

oiltest09

2ヶ月後

oiltest15

10ヶ月後

oiltest24

15ヶ月後


 食用、化粧品レベルの精製には、それなりの設備が必要。

質問があるのですがお答え頂けると幸いです。他社ではαリノレン酸の色が黄色で馬油の色があるのはそのせいで、とても含有量が多い目安みたいな書き方をしていますが、薬師堂さんの馬油はとても白く綺麗です。薬師堂さんの馬油のαリノレン酸の含有量は少ないのでしょうか? そしてαリノレン酸は酸化しやすいですが、どうやって酸化防止しているのでしょう?(ビタミンEの添加は止めたんですよね?)

・・・αリノレン酸の色が黄色と言うのは何から引用してあるのかわかりませんが、「共立出版/化学大辞典」によると、αリノレン酸は無色の液体となっています。当社の馬油が白いのは、馬油脂以外の不純物をほぼ100%除去できているからです。・・・天然油脂において酸化は防げない敵なのですが、現在のソンバーユの精製度ですと、ビタミンEを配合してもしなくても酸化の速度はかわりません。ですから現在はソンバーユにはビタミンEを配合していないのです。ソンバーユは20℃の常温保管であれば、ほぼ2年間は無臭を維持します。・・・

馬油は40度を越えると急激に酸化するらしいですが、どうやって酸化を防ぎながら釜で炊いて抽出するのでしょうか。

油が酸化するためには酸素が必要です。どの食用油脂メーカーでもやっている方法ですが、真空にして完全に酸素を取り除いた釜で精製しますから酸化せず不純物を除去できるのです。

薬師堂さんへ質問 | ☆馬油を愛用している方☆




ソンバーユに使用している馬油の違い | 馬油と梅雲丹の薬師堂


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