2015/11/22

ヌメ革の日焼け~植物タンニンの酸化と耐光性

11/22/2015
(1) 植物タンニンについて
 (1-1) 主な植物タンニン
 (1-2) 耐光性
 (1-3) 植物タンニンの歴史
 (1-4) 主な植物タンニンの用途
 (1-5) キセノンランプで日焼け実験
(2) タンナー
 (2-1) Tannerie Masure
 (2-2) Böle Tannery
 (2-3) Tannerie Bastin
 (2-4) Lederfabrik Rendenbach

(1) 植物タンニンについて

(1-1) 主な植物タンニン

植物タンニンの種類と生息地 | 川村通商




特徴 カテコール系縮合型 ピロガロール系加水分解型
溶液の色 赤み・赤褐色 黄み・黄褐色
耐光性 弱い 強い

植物タンニンの分類 | 川村通商


(1-2) 耐光性

 耐光性が弱い=日焼けしやすい、耐光性が強い=日焼けしにくい。

光による劣化に対する抵抗性。自然環境の中で受ける影響の中で、光による変化が比較的大きく、特に紫外線による作用が大きい。天然繊維をはじめ合成繊維も多かれ少なかれ、光による分解で黄変したり、強さが低下したりする。光に含まれる紫外線や青色の可視光には、漂白、酸化作用があり、染料や塗料の退色を引き起こし、さらに長時間照射すると、銀面や仕上げ塗膜が劣化する。光に対する抵抗性を推測するために、劣化を加速するような紫外線、サンシャイン、キセノン、カーボン、蛍光灯など人工光でばく露試験を行うのが普通である。革の試験は繊維の試験を適応して行う。繊維の試験方法として、JIS L 0841に日光、JIS L0842:2004に紫外線カーボンアーク灯光、JIS L0843:2006にキセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法がある。ISOではISO 105-B01:1994に太陽光、ISO 105-B02:1994にキセノンアーク灯光に対する試験方法が規定されている。

耐光性 | 皮革用語辞典


(1-3) 植物タンニンの歴史

 植物タンニンとは、樹皮、葉、根、莢から採れ、コラーゲン繊維と化学的に結合し、植物性ポリフェノールと非タンニン分(non-tannin)からなる収斂性のある混合物として定義される。非タンニン分には糖類、澱粉類、塩類、酸類が含まれ、コラーゲン繊維とは直接反応しないが、鞣し具合と最終的な品質(耐水性、堅さ、大気汚染への耐性)に影響するので重要だと考えられている。

 装丁用の革は伝統的にオークバークで鞣されていた。18世紀に原材料不足になり、大英帝国は新世界で新しいタンニンを調査した。別のタンニン剤の発見とともに、皮革化学が発展し、タンニン剤の違いの理解が進んだ。植物タンニンはカテコール系縮合型とピロガロール系加水分解型に分けられる。

Skin Deep - Volume 39 | J Hewit & Sons

非タンニン分とは、タンニンエキス中に含まれる皮に吸着されない成分。


 様々な植物の樹皮、葉、実の水溶性成分中に、鞣す特性があることが分かっている。水溶性成分を抽出するときに、鞣す特性はないが革の仕上がりに大いに寄与する成分("non-tans")も抽出される。抽出成分は植物によって著しく変わるし、抽出する条件(特に温度とpH)によっても変わる。抽出のコントロールが安定した品質には不可欠である。

 植物タンニンはカテコール系縮合型タンニンとピロガロール系加水分解型タンニンに大きく分けられる。

 カテコール系の代表例はミモザとケブラチョであり、皮と強く早く結合する(収斂性が強い)ため人気がある。革は赤褐色になる。耐光性は良くないので、時間とともに色はさらに赤くなる。加えて、酸化によって繊維の強度が落ちる。しかしながら、この劣化はかなり緩やかなので、革の寿命は十分長い。

 一方、スマックやミロバランといったピロガロール系は、一般的に革を黄色か、緑がかった茶色にし、耐光性は良い。色は濃くはなるが、カテコール系のように赤くなることはない。ピロガロール系は収斂性が弱いので、皮の内部まで十分浸透してから皮と結合する。深く鞣されることで、芳醇な革になる。ピロガロール系に含まれる非タンニン分は有害なガスから革を守る。

 タンナーは要求特性に最適なタンニン(の混合物)を選ばなければならない。例えばHewit社では、淡色の革の多くは装丁用で、耐光性と寿命を最重要視するため、スマック、ミロバラン、チェスナットを使っている。装丁用以外の全く違う要求特性の革製品用の革も作っており、それにはミモザを使っている。

Skin Deep - Volume 4 | J Hewit & Sons


 ピロガロール系タンニンが上質な装丁用革に使われているのは、ピロガロール系は酸化に対して安定しているからであり、耐光性は良い。ピロガロール系に約40%含まれている非タンニン分は大気中の有害なガスから革を守る。近年、装丁家はスマック、ミロバラン、タラといったピロガロール系で鞣された革を使っていることを保証しなければならない。ピロガロール系は一般的に高価で、収穫が難しいのが欠点である。

 一方、ミモザ、ケブラチョといったカテコール系タンニンは植林樹木から採れるため、ピロガロール系よりもたくさん使われている。カテコール系で鞣された革は靴、鞄といった寿命の短い物に使われており、時間とともにレッドロットが現れる。このような問題が起こる原因は、カテコール系は、第1に酸化に対して安定していないため、第2に非タンニン分がかなり少ないためである。一般的に安い革はカテコール系で鞣されているため、装丁家は安い革を使って古い貴重図書を修復することには慎重にならなければならない。

レッド・ロットとは、革が長い時間にわたり光や空気中の酸素をはじめとする大気中の汚染物質(硫黄酸化物や窒素酸化物など) に曝されて、赤茶けた粉状に劣化した状態をいう。

「17、18世紀の本は無傷なのに、近代の本は修復しなければならないのはなぜか?」

 これは装丁に関する本質的な問いである。19世紀初期まで本に使われた革は、オークといったヨーロッパに自生している樹木で鞣されていた。オークバークはピロガロール系のため、オークで鞣された革は長持ちする。20世紀になるまで、タンニンの違いによって生じる問題が明らかにされることはなかった。

 19世紀中に3つの重大なことが起こった。まず、大衆が裕福になり教育を受けるようになったため、本の需要が高まった。植民地との貿易が増えることで、ヨーロッパのタンナーはアフリカとインドから来るより安い革とタンニンを使い始めた。その結果、19世紀後半から1920年代までの本の大多数は、ミモザやケブラチョといったカテコール系で鞣された革で装丁された。次に重要な要因は硫酸の使用であった。人工染料と革漉きに硫酸が使われた。今日では弱酸のギ酸が使われているが、人工染料の定着に最初は硫酸が使われていた。革漉きでは鉄染みが問題であった。今日では様々な薬品があるが、鉄染みを取る19世紀の最も簡単な方法は硫酸を使って漂白することだった。革に残った硫酸は有害な影響を与えた。最後に、産業革命によって大気汚染(SO2とNOX)が起こった時代でもあった。有害なガスから革を守る非タンニン分がほとんどないカテコール系で鞣された革では酸化によるレッドロットが決定的に起こった。


「PIRA試験の導入によって、なぜ問題は解決しなかったのか?」

 レッドロットは1920年代の英国で問題認識され、Innesが10年掛けて研究した。Innesはピロガロール系で鞣された革を使う重要性と有害ガスから守る緩衝剤の必要性を明らかにした。PIRA試験と呼ばれる装丁用の革の適否をチェックする試験が開発された。

 PIRA試験は革の良し悪しを判定する良い指標であったが、また別の問題が起こった。ミモザのようなカテコール系で鞣された革に大量の乳酸カリウムを緩衝剤として添加すればPIRA試験をパスさせることができたのだ。これを実行し、全く不適切な革を装丁家に売った良心的ではないタンナーもいた。

 上質な装丁用革のタンナーはInnesの研究に従い、ピロガロール系で鞣した。私の父は1948年にHewitに入社したが、Hewitはピロガロール系のみを使い、緩衝剤は添加していなかった。

Skin Deep - Volume 7 | J Hewit & Sons


(1-4) 主な植物タンニンの用途

Vegetable extracts | Otto Dille


上段にOtto Dille社の説明、下段にJLIAの辞典を転載。

  • ピロガロール系加水分解型・・・日焼けしにくい

    オークバーク 耐久性があり、丈夫な黄褐色の革。断面は暗褐色。
    日本における、かしわ(槲)、なら(楢)、かし(樫)などquercus 属の樹木の皮で加水分解型の植物タンニン剤に属し、ヨーロッパでの代表的な鞣剤。オーク材の樹皮を粗く粉砕し、水とともに槽に入れて皮を鞣す。オークはバーク(樹皮)だけではなく、木部や実、葉などにもタンニンを多く含み、オークのタンニンエキスとして抽出された物がヨーロッパでは広く使用されていた。現在では樹木の減少とともに使用量も減少している。
    スマック ソフトで柔軟性があり、色の薄い革。
    五倍子と並びタンニンとして最も古くからよく知られ、主として地中海地方に産するRhus coriaria(sumac)の乾燥した葉から調製する。非常に薄い黄緑色をしており、加水分解型タンニンに属し、収れん(斂)性がほとんど無く、染色性が良い。主に薄物革及び羊革の製造に使用されているが、現在は余り使用されていない。
    タラ 染色しやすく、耐光性が非常に良い。
    南米ペルーで生育するカサルビアの実のさや(莢)から抽出される加水分解型タンニン。植物タンニン中で最も淡色で、耐光性が良い。有機酸の含有量が多く、収れん(斂)性は低い。鞣した革は銀面のきめが細かく、柔軟な革となる。
    チェスナット スムーズで繊維の詰まった銀付き革。耐光性が良い。
    ヨーロッパチェストナット(Castanea sativa mills.)やアメリカチェストナット(Castanea dentana. fam. fagaceae)の木の、木質部から抽出される植物タンニンエキスで、加水分解型に属する。収れん(斂)性と日光堅ろう性が強く、また多くの有機酸を含むため、ほかの縮合型植物タンニン剤と併用して使用されることが多い。 
    バロニア ソフトで柔軟性がある革から硬い革まで。
    小アジア、ギリシャなどに生育するトルコオークの実及び殼斗<かくと>より得られるタンニン。主として、Quercus valonea、 Quercus macroropis及びQuercus aegilopsの3種で、加水分解型タンニンに属し、多量のエラグ酸を含む。バロニアは革中に多量のブルーム(黄色の不溶性析出物)を沈着し、堅ろう性を必要とする底革やベルト革の鞣しに用いられる。ほかのタンニンと併用されることが多い。
    ミロバラン 混合鞣しのソフトレザー。
    ミラボラムとも呼び、熱帯に生育するテルミナリアの果実より抽出される植物タンニン剤で、加水分解型タンニンに属する。チェストナットの代替としても使用され、独特の色と香りを持つ。ミロバランで鞣した革は、柔軟、淡色であるが、しまりと堅さに欠けるところがあり、ケブラチョ(ケブラコ)、ミモザなどのほかのタンニンと混合して利用される。

  • カテコール系縮合型・・・日焼けしやすい

    ガンビア ソフトレザー。伸縮性が良い。
    マレーシアに生育するあかね(茜)草科(Rubiceae科)のつる性かん木の小枝及び葉から抽出されたタンニンエキスで、縮合型タンニンに属し、温和な鞣し力を持つ。また、ガンビールとも呼ばれ阿仙薬(収れん・消炎・止血作用)として漢方にも使用される。
    ケブラチョ(ケブラコ) とても耐久性があり、丈夫な赤褐色の革。
    南アメリカ産、ウルシ科の芯材より抽出して得られるタンニン。鞣し剤として重要なものはschinopsis balansae(和名:バランサエ、英名:quebracho?colorado chaqueno)、schinopsis lorentzi(和名:ラレントジイ、英名:quebracho-colorado)の2種類の近縁樹木の芯材より得られる。このエキスは暗褐黒色で60%以上のタンニンを含む。タンニン剤としては縮合型タンニンに属する。冷水には余りよく溶けない。粗製エキスと亜硫酸処理を施して冷水に可溶のエキスがある。亜硫酸処理エキスは、粗製エキスを8~10%の重亜硫酸ナトリウムで加圧加熱して調製する。厚物革の充てんには、鞣しの最後に加温した粗製エキスを用いる。亜硫酸処理エキスは初期に使用し、皮への浸透を促進させる。
    ミモザ(ワットル) ソール、ストラップ、ハーネス、鞄、室内装飾等。
    オーストラリア原産のアカシアの樹皮から抽出されるタンニン剤。アカシア属は非常に種類が多く、その分布も広いが、特に樹皮のタンニン分の多いブラック、シルバー、ゴールドのワットルから抽出される。現在は南アフリカ、ブラジルでのプランテーションが進み、安定した収穫が得られている。縮合型タンニンに属し、世界で使用されている植物タンニンの過半数を占めている。
    ミモザバーク 丈夫で、色が薄く、やや赤褐色の革。

(1-5) キセノンランプで日焼け実験

 ピロガロール系加水分解型(チェスナットとタラ。ピーナッツもか?)は日焼けしにくいことが確認できます。また、ミモザG、ミモザC、ミモザLの順に日焼けしにくくなる、という結果は興味深いです。精製の具合によって耐光性が変わるのでしょう。
 2、12番の「ブドウの種」のタンニンエキス(製法の特許取得済みのAIICA社提供の非売品)以外は、市販のタンニンエキスを使って鞣した。13番の「ブドウの種OVR」はワインに添加される市販品で価格が高いそうだ。

  • 上段左から:ミモザC、ブドウの種、ミモザG、ケブラチョATG、チェスナットA、チェスナットD
  • 下段左から:ガンビア、ミモザL、タラE、ピーナッツ、ケブラチョAG、ブドウの種OVR
  • で鞣した革の色。


水滴痕。


左側1/3を覆って、キセノンランプで日焼けさせた。上から、1、2、5、12、16、24、36時間後。

  • 左側左から:ミモザC、ブドウの種、ミモザG、ケブラチョATG、チェスナットA
  • 右側左から:チェスナットD、ガンビア、ミモザL、タラE、ピーナッツ

  • 左側左から:ケブラチョAG、ブドウの種、ブドウの種OVR、ケブラチョAG+ミモザL+ブドウの種OVR、ケブラチョAG+ミモザL+ブドウの種
  • 右側左から:タンナーA、タンナーB、タンナーC、ブルースケール

Curtición vegetal con extracto de semilla de uva(ブドウの種由来のタンニンエキスによるタンニン鞣し) | 第61回スペイン皮革産業化学協会大会(2012年)


 ミモザの精製について。下掲は南アフリカの会社のミモザ。
  • 天然の色の"MIMOSA ME"を基準にした色見本と、漂白されたミモザ、金茶と焦げ茶に色付けられた(?)ミモザ。
  • 横軸:色の濃淡、縦軸:分子量(分子量が小さいほど浸透するのが早く、分子量が大きいほど革の弾力感、充実感が増す)

Tannins | Extract Dongen

Black Wattle Bark Extract | UCL Company




Black Wattle Bark Extract | UCL Company

ミモザ・・・のタンニンの性質としてはカテコール系が優勢ですが少量のピロガロール系も含有します。また、それ自体の色が淡く、さらに亜硫酸処理により漂白出来ます。

植物タンニンの種類と生息地 | 川村通商


 タンニンの相乗効果について。3種類のタンニンを混ぜた14、15番の引裂強さは、ケブラチョAG単一よりも落ちていますが、引張強さはグッと上がっています。どういう組み合わせでタンニンを使うかにノウハウがありそう。
タンニンエキス 厚さ
(mm)
引張強さ
(N/mm2
切断時伸び
(%)
引裂強さ
(kg/mm)
吸水
(秒)
1 ミモザC 2.21 383 32.9 7.13 19.6
3 ミモザG 2.56 377.7 30 7.17 20.2
8 ミモザL 2.59 381.2 46.3 10.95 42.8
4 ケブラチョATG 2.33 394.1 30.3 8.24 19.3
11 ケブラチョAG 2.38 363 49.6 13.33 49.9
7 ガンビア 2.66 438.5 48.3 10.74 25.7
5 チェスナットA 2.59 472.1 36.1 8.48 21.5
6 チェスナットD 2.49 487.6 40.7 9.06 22.2
9 タラE 2.64 436.8 45.5 10.78 19.7
10 ピーナッツ 2.51 329.1 53.1 11.97 49.2
2 ブドウの種 2.07 312.5 43.7 8.71 18.4
12 ブドウの種 2.22 283.8 38.5 11.94 19.7
13 ブドウの種OVR 2.23 342.7 45.3 10.56 12.6
14 ブドウの種OVR+ミモザL+ケブラチョAG 2.53 515.9 39.4 10.56 7.5
15 ブドウの種+ミモザL+ケブラチョAG 2.25 472.9 39.9 10.38 12.6
16 タンナーA 2.36 501.8 29.1 8.26 39
17 タンナーB 2.41 679.9 33.4 9.68 20.7
18 タンナーC 2.33 608.4 29.9 8.86 17.3

Curtición vegetal con extracto de semilla de uva(ブドウの種由来のタンニンエキスによるタンニン鞣し)


 ミモザ vs タラ について。ミモザよりタラのほうが引張・引裂強さとも強い傾向にあることが上掲のデータで確認できますが、タラは銀面のしまりが良くない(銀浮きしやすい)ようです。

・・・一時、タラというタンニンを使用したときがありました。 タラとは、天ぷらで食す少し苦味のあるタラの芽のさやの部分を精錬しているそうです。ミモザが赤っぽくなめしあがるのに対して、タラは黄色味になめし上がります。耐熱性もミモザよりも高く、何となくですが引き裂き強度も上がりそうなので数十回ほど使用しました。

しかし、今は使用していません。 その理由は、何回なめしをしても毛穴が黒っぽくなったり、傷が極端に目立つためです。なかなか原因が分からず、量やドラム投入のタイミングなどを変えてトライしましたが、どうにもいけませんでした。 結局、理由が分からず解決もしなかったので他のタンニンを使用しました。あとで商社の方に聞いたところ、どうやらタラは精錬状態が悪く草や茎、小枝などが一緒に混ざってしまっているとのこと。 それら不純物が毛穴や傷に絡んでしまっていたという結論になりました。

でも、あの風合いやなめし上がりの色は捨てがたい。そのうち再挑戦してみようか!・・・輸入されていればの話ですけどね。

ミモザとタラパウダー | 山口産業株式会社




タンニンエキス 毛穴の大きさ 緻密さ 銀面のしまり
1 ミモザC Beige Fine Good Excellent
3 ミモザG Light beige Fine Good Excellent
8 ミモザL Light beige Fine Good Good
4 ケブラチョATG Pink Regular Very good Excellent
11 ケブラチョAG Pink Regular Very good Excellent
7 ガンビア Dark beige Regular Good Good
5 チェスナットA Greenish brown Strong Very good Excellent
6 チェスナットD Greenish brown Strong Very good Excellent
9 タラE Light Fine Regular Regular
10 ピーナッツ Very light Regular Little Regular
2・12 ブドウの種 Pinkish brown Fine Good Excellent
13 ブドウの種OVR Dark pink Regular Good Good





(2) タンナー

(2-1) Tannerie Masure

 言語境界線近くの、フランス語圏側にある。Google翻訳のフランス語発音ではマズール、オランダ語発音ではマシュア。

La Tannerie Masure, l'affaire est dans le sac - 23/04/13

http://euro-map.com/karty-belgii/


 マズールはミモザ、ケブラチョ、チェスナットバーク由来のタンニンエキスを使っている。

Tannins are organic substances extracted from plants (sap, leaves and bark) and at varying levels of concentration. Their original natural function is to protect against parasites. Every tannin has its own unique properties that make each leather produced even more unique.

One of the special properties of Masure leather resides in the choice of tannin used. In the purest tradition of vegetable tanneries, we mostly use mimosa, Quebracho and chestnut barks. Sustainable development is at the heart of our way of thinking. A symbiosis between traditional equipment and modern tools means the Masure Tannery is able to respect European environmental norms.

Leather and vegetable tanning - Tannerie Masure


 マズールの革を使った鞄。左はケブラチョとチェスナットバークで3週間鞣した後、オイル掛けしてディストレス(エイジング)加工した革。右はミモザで3週間鞣した未染色の革。


ミモザのタンニンエキスはブラックワットル(モリシマアカシア)の樹皮から採れる。ミモザは色が薄いので、色の薄い革になる。また、銀面の欠陥を最小限にして、仕上がりを改善する。


ケブラチョのタンニンエキスは南米に生育する広葉樹(硬材)の芯(木質部)から採れる。ケブラチョで鞣すと、非常に耐久性があり丈夫な赤褐色革になる。 日焼けしやすく、使用とともに濃くなる。


チェスナットバークのタンニンエキスは、ミモザとケブラチョに次ぐ3番目に重要な植物タンニンである。耐水性を改善し、日焼けしにくいので、魅力的で安定した色になる。


What's so special about our leather | Ruitertassen



(2-2) Böle Tannery, the last standing spruce bark tannery in the world.

In addition to our standard products we make Bespoke items.・・・The tanning takes up to 24 months for our special highland cattle hide used for the icon golf bag. Standard tanning time for our spruce bark tanned leather is 9-12 months.

Bespoke | Böle Tannery

鞣しの標準期間は9~12ヶ月だが、24ヶ月の特注もあり。


Norway spruce (Picea excelsa). The bark contains 7 to 13 percent of catechol tannin

Cyclopedia of farm crops | Hathi Trust Digital Library

スプルースは日焼けしやすいカテコール系。


How does spruce bark rate as a tanning agent?

Actually spruce bark is not necessarily the best tanning agent and other bark species possess a greater concentration of tannin, but it’s only a question of allowing more time. Historically, we took what was around us as a raw material, and spruce trees are what grow in the forests around us here in northern Sweden, along with a plentiful supply of pure water from the Pite River.

Interview with Böle Tannery | Merchant & Makers

必ずしも最善(高濃度)のタンニン剤とは言えないスプルースバークを使っているのは、それがスウェーデン北部の自生樹木だから。


SUN/kakke ⇔ LAST ⇔ ogasawara shoes 製作編 | 小笠原シューズ



(2-3) Tannerie Bastin

毎月11トンのカウハイドを鞣している。


フランスはソールに十分な厚さになるまで肥育しなくなったので、オーストリアとドイツのカウハイドを使用している。


タンニン濃度を徐々に上げて2ヶ月間鞣す。


従業員数は10人。


1次鞣しにはケブラチョとチェスナット(写真)のエキスを、それぞれ毎月3.5、5.9トン使う。


100年前とほぼ同じ機械。


2次鞣しには毎月1.2トンのオークの樹皮を使うが、生産者が希少。


皮とオークの樹皮を交互に挟んで、8~9ヶ月鞣す。


20年前にニレの木がフランスから無くなった。革を載せているニレ材の在庫は3枚。


Dans les ateliers de J. M. Weston | Journal du Net(2006年の記事)




 赤い方がケブラチョ。

USINE J.M.W. : QUI CONNAIT LA MANUFACTURE ET LES TANNERIES ? | Depiedencap

Visite de la manufacture Weston | En grande pompe



(2-4) Lederfabrik Rendenbach

Die Sohlen des Papstes | SWR Mediathek

ソールにはカウハイドが最適。オックスハイドやブルハイドは繊維が荒くルーズ過ぎる。


原皮を裁断


裁断後、水漬けして塩抜き


廃水浄化設備


石灰漬け、脱毛


裏打ち(肉面側の脂肪や肉を取り除く)


水絞り(?)


脱灰、酵解(?)


準備工程が終了し、鞣し工程へ


上段:オークバーク、スプルースバーク
下段:ミモザ、バロニア


タンニンの山


1次鞣し:タンニン液の濃度を変えながら4週間


2次鞣し:皮とタンニンチップを交互に重ねて、タンニン液の中で6週間を2回

3次鞣し:皮とタンニンチップを交互に重ねて、タンニン液の中で9ヶ月間



タンニンのチップが付いた鞣し終わった皮


水洗い


乾燥


オイル掛け


ソールの抜き型


検品


Rendenbach | Baumbach

3 Comments:

匿名 さんのコメント...

数日前、縁あって貴サイトにて『ヌメ革の日焼け実験』の記事を拝見させていただきました。
そこで自分なりに解釈を深める為に、様々なオイルに含まれる飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸のパーセンテージについて調べ、飽和脂肪酸の酸化スピードを1として、貴サイト記事を参考に、そのオイルの酸化スピードについて調べてみました。(例:Xオイルの脂肪酸組成=飽和脂肪酸30%、不飽和脂肪酸一価30%、不飽和脂肪酸二価20%、不飽和脂肪酸三価20%→酸化スピード:30+30×100+20×100×30+20×100×30×2)
ここで疑問に思ったのがヨウ素価の数値と酸化スピードの関係性です。
酸化スピードが早いものは、ヨウ素価も高いものと思っていたのですが、全く関係のない結果となりました。
私の理解が間違っているのでしょうか。是非ご意見を参考にさせていただきたいです。

以下メモ 自分用に作ったので未完成、雑ではありますが悪しからず
牛 ヨウ素価42
飽和脂肪酸 52 不飽和脂肪酸一価3800 二価9000
合計 12852
豚 58
42 4500 24000
28542
馬油 78
37 4200 15000 9600
28837
ミンクオイル
27 6300 15000
21327
鯨油 134
38 6000 6000 600
12638
オリーブオイル 74
19 7300 21000 600
28919
パーム油 54
49 4200 27000
31249
椿油
96 40 11700 120
11956
シアバター
51 4380 18000 60
22491

匿名 さんのコメント...

ヨウ素価が何たるかを勘違いしていました。解決したので回答は結構です。
前回の投稿が何かの参考になれば。

べじたん さんのコメント...

私の理解があっているかは分かりませんが、加筆しました。
http://vegtan.blogspot.jp/2012/11/yellowing.html#PS


> 馬油 78
> 37 4200 15000 9600

農水省によると、馬油は、
飽和脂肪酸 37%、一価不飽和脂肪酸 42%、二価不飽和脂肪酸 5%、三価不飽和脂肪酸 16%
ですので、9600は96000ですね。

> 椿油
> 96 40 11700 120

ウィキペディアが引用している米国農務省によると、椿油は、
飽和脂肪酸 21.1%、一価不飽和脂肪酸 51.5%、二価不飽和脂肪酸 22.2%、三価不飽和脂肪酸 0.7%
となっていますね。